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東京家庭裁判所 昭和34年(家)5526号 審判

申立人 松橋春子(仮名)

相手方 松橋保雄(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、金三二、〇〇〇円を直ちに、および昭和三十四年六月以降毎月末日限り金八、〇〇〇円を、それぞれ東京家庭裁判所に寄託して支払う。

理由

一、本件申立の要旨

(一)  申立人と相手方は昭和三十年五月○○日婚姻届を了した夫婦であり、当事者間には昭和二十六年三月○○日長女栄子が出生している。

(二)  相手方は駐留軍要員として働き、月収約四〇、〇〇〇円を得て、夫婦親子三人円満に暮していたが、昭和三十一年五月相手方は仕事の関係で、北海道に出張し申立人と別居し、帰京後も申立人方に立戻らず、他の女性と同棲して申立人を顧みないようになり、別居以来はじめは毎月一五、〇〇〇円を申立人に生活費として送金していたが、昭和三十三年八月以降その生活費も送らなくなり、申立人は生活に困窮している。

(三)  よつて申立人は、申立人と相手方との婚姻継続中、婚姻より生ずる費用の分担として相手方に対し、毎月、金一五、〇〇〇円の支払を求める。

二、裁判所の判断

(一)  本件記録によると、申立人は相手方に対し、婚姻費用分担の調停申立をなし、昭和三十四年二月六日を第一回期日として四回に亘り、調停委員会により調停が試みられたが、調停は成立しなかつたことが認められ、よつて家事審判法第二六条第一項により、本件調停申立の時婚姻費用分担の審判申立があつたものとみなされる。

(二)  本件記録中の戸籍謄本、給与証明書及び証人橋田スミ同北井喜子の各証言、申立人、相手方各本人審問の結果並びに、家庭裁判所調査官の報告書によると、申立人主張の事実は相手方の月収約四〇、〇〇〇円あることを除きすべて認めることができる。

(三)  相手方は、申立人と婚姻する意思なく、申立人がなした昭和三十年五月○○日付婚姻届出は、相手方の意思に基かないものであるから、右届出による申立人と相手方との婚姻は無効であつて、従つて相手方は申立人に対し、婚姻費用分担の義務は負わないと主張するけれども、申立人、相手方の各本人の供述により認められる申立人と相手方は、昭和二十五年頃知り合つて、恋愛関係から肉体交渉に進み、二人の間に栄子が出生し、間もなく家庭裁判所の調停により、相手方が栄子を認知し、その後昭和二十七年頃より申立人と相手方は同棲し、爾来事実上の結婚生活を前記婚姻届出まで続けており、さらに婚姻届出のなされた後も、相手方と北海道に行くまで続けていた事実と考え合わせると、相手方の主張を直ちに認めるわけにはゆかない。然るときは申立人と相手方との婚姻は有効とせざるを得ず、相手方は申立人に対し、申立人との婚姻より生ずる費用を分担すべき義務があるといわなければならない。また、相手方と申立人との婚姻が、たとえ事実上破綻に頻しているからといつて、離婚により夫婦関係が解消しない限り、相手方は申立人との法律上の婚姻継続による右責任を免れるべきではない。

(四)  ところで、本件記録によると、申立人は当事者間の子栄子を引取り養育しており、申立人の生活費および栄子の養育費として、毎月約一二、〇〇〇円を要し、申立人は学校給食の作業員として、月三、〇〇〇円乃至四、〇〇〇円を得ている。相手方は月給三〇、〇〇〇円以上を得て、相手方の母及び件外友田光代と同棲の生活費に相当額を支出している。また相手方が申立人と別居するに至つた事情は、本件記録によつてみると、申立人と相手方とは性格が合わず、相手方は結婚当初から、申立人の性格教養等につき、深刻な不満を懐いており、相手方が他の女性と同棲したことから、遂に破鏡を招くに至つたのであるが、その破綻原因は、必ずしも相手方のみが招いたとはいい難く、申立人の唯々感情に走る性格上の欠陥も相当原因をなしていることは推測にかたくない。

以上の事実を綜合すると、相手方は申立人に対し、申立人および栄子の生活費につき、金八、〇〇〇円を分担するのが相当である。

然るときは、相手方は申立人が相手方に対し、生活費の請求をなしたものと認められる前認定の、第一回調停期日が開かれた昭和三十四年二月以降の生活費を分担する義務があるから、既に履行期の到来した二月以降五月までの分担額、合計金三二、〇〇〇円は直ちに、六月以降の分担額については、毎月末月限りそれぞれ家庭裁判所に寄託して払うべきが相当である。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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